事務局  しかし、崩壊してから、自然に再生するまでの100年以上の間に、崩壊した森が私たち人間に与えるダメージというのはとんでもないですよね。
谷関氏  それを今いおうと思ったんですが(笑)。本当にそうで、元に戻るまでの何百年という間、人間は大変なしっぺ返しにあうと思います。膨大な人工林のもつ防災機能を損ねないように管理するべきだというのは間違いないことです。

原生林は人間の体と同じように
動的平衡状態にあります
谷関氏  それと、人口林以外の6割が純粋な自然林かというと、そうではないということも付け加えなければなりません。昭和30年代まで日本は広葉樹林を薪炭林として使用し尽くしていました。里山には今も雑木林がありますが、それらの木の多くはせいぜい樹齢40年くらいです。木の寿命からすると300年くらい経たないと極相(植物の種が遷移していき最終段階で平衡した状態のこと)に至らないのですが、極相に至った自然林がどれだけあるかといえば、日本には非常に限定的にしか存在しません。だから、和歌山の人工林は約6割といいますが、厳密に言えばもっと多いことになります。
事務局  これだけ森林が豊かな和歌山でも原生林というのはわずかですね。
谷関氏  私は、原生林というのは人間の体とよく似ているといつも思うんです。樹齢500年を超える大木もだんだんと幹の中心が腐ってきて、やがて衰えてポキッといくわけです。すると大木の腐った幹から草が生えてきてまた新しい種の遷移が始まっていきます。森林が常に安定した姿にあるのではなくて、部分的に見ればどんどん動的に移り変わっていくのです。
 われわれ人間の体も分子レベルで言うと数年のうちに全て入れ替わってしまうといいますね。青山学院大学の福岡伸一教授はこれを動的平衡と表現しています。原生林というのはまさに動的平衡状態にあります。
 スギやヒノキだけがある人工林はこういう動的平衡状態が生まれません。
スギ・ヒノキの針葉樹林に広葉樹を植林する
針広混交林化がひとつの方向性
事務局  近年、日本でもスギやヒノキの人工林を計画的に間伐して広葉樹を植林していく混交林づくりが進んできました。針葉樹だけのモノカルチャーな森に比べれば生態系が豊かになるし、水源の涵養や防災の点でも強い森になると期待されています。こういう動きを一部の林業者にとどめずに全国に広げていくべきだと思います。
谷関氏  そうですね。もう作ってしまった人工林について振り返ってもしかたありません。
 海外の事例で言うと、ドイツにシュヴァルツヴァルトという「黒い森」として有名な森林地帯があります。ドイツは第一次世界大戦後に大量の木材が必要となり、その結果シュヴァルツヴァルトでも多くの森が消失しました。それで、この一帯に成長の早いトウヒという松科の針葉樹を植林して広大な人工林を作ったのです。それらの木はやがて密集して光を通さなくなり、それこそ「黒い森」になってしまった。ここからが日本と少し違うのですが、この「黒い森」を環境問題への取り組みとして、この30年営々と広葉樹やトウヒ以外の木を植林して混交林化を進めています。


典型的な日本のスギの人工林


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